神奈川県
「御慈愛は国籍を越えて」
午後訪れた馬堀援護所は、元陸軍重砲兵学校の跡だった。厚生省援護局次長豊原道也が説明すると、
天皇は
「引き揚げてまいる軍人や一般人は、どういう気持ちで帰って来るか」と尋ねた。
豊原は「
南方の島々、とくに戦火に見舞われたる地より引き揚げてまいりましたる者のなかには大いなる打撃を受け、今後の方途に迷い居る者も相当ございます」と答えた。天皇は、かつての〃赤子〃である朝鮮人、台湾人が帰国するに当たって、どんなことをしているか、重ねて聞く。
豊原は
「できる限りの世話をし、中には感謝しているものもおります。多くはいろいろ要求をなし、種々問題も起こし困っています」と隠さず述べた。豊原は天皇がいまや外国人となった人たちにまでご慈愛を垂れ給えるご叡慮に恐懽した。